奈良県に開く鹿専門の雑貨店「ジュエヌ」は、2023年に開業20周年を迎えました。
そんななか、「クリエイティブな活動を始めて30年よ」とつぶやく、ジュエヌのオーナー。

===

鹿アイテムだけを扱う、ちょっと珍しいお店を開いたジュエヌのオーナーは、20年間どんな想いを繋いできたのか?
そもそも、どうして他のなにでもなく、「鹿」だったのか…?

===

今回は、ジュエヌの成り立ちや今後の展望をこっそりと、オーナーにおうかがいした備忘録として記事にしていきたいと思います。

インタビュー・ライター:
メロン(ジュエヌのオンライン担当スタッフ)

鹿専門店「ジュエヌ」は、お菓子作りから繋がった。
メロン:今回、鹿雑貨店である「ジュエヌ」が20周年を迎えたということで、おめでとうございます。
オーナーが鹿の専門店としてお店を開かれてから20年と考えると、相当の月日をかけて、鹿モチーフと向き合ってこられていますよね。

オーナー:私が始めた頃は、メロンちゃんはまだ小学生だったのかな?
私にとっての鹿モチーフ、不思議な20年を振り返りながら話すって楽しそう。メロンちゃん、何でも聞いてください。

メロン:ありがとうございます。
そうですね。20年前だと私は、まだピカピカのランドセルを背負っている頃だったと思います。
ずっと気になっていたのですが、鹿モチーフだけを取り扱うお店って、かなり珍しいですよね。
20年も前のお話になりますが、お店を始めた頃から「絶対に鹿にしたい!」と思って始めたのですか?

オーナー:じつはお店をしたいって思ったことは一度もなくて。
お店になってしまった20年なの。

メロン:もともとお店を開くつもりがあって、この形にしたわけじゃなかったんですか?お店ができるまでのお話を、詳しく聞かせていただきたいです!

オーナー:私はもともと、お菓子作りが好きでね。20代の頃には、イギリスやフランスの本場でお菓子作りを学んで、25歳のときには本を出版したりして。私はお菓子作りで生きるんだって思ってたんだ。でも、結婚出産でそれが続けられなくなったのがきっかけで、最初はね、古いビルの4階にアトリエを借りたの。「週末だけでもアトリエを公開してみたら?」という友人の言葉が始まりだった。そしたらそこに、いろんな人達が集まりだしてきたの。今思うとこれが、ジュエヌのおいたちかな。

メロン:もともと大好きだったのは、お菓子作りだったんですね。
それが鹿雑貨につながるって…すごく唐突ではないですか?

オーナー:そうね。元々はお菓子作りがスタートで。目標だったお菓子の本を出すことが達成できて、お菓子作りが私の全てだと思っていた私が、今は鹿のものに携わっているなんて…しみじみ驚きです。

メロン:ご自身でも驚かれているほど、人生の転機が訪れたということですね。ますます、なぜ鹿にたどり着いたのか、興味が湧いてきました。
たとえば、奈良で鹿が有名だから、鹿雑貨に魅力を感じた、などという背景があるのでしょうか…?

オーナー:
当時も奈良には鹿は当然いたけれど、鹿を題材にしたものは老舗のお店のロゴだったり、包装紙だったり、奈良公園のビニールで出来た駒がついた定番の鹿のおもちゃだったり…それほど鹿のものは無かったの。
どちらかというと当時の奈良は、「大仏様」のイメージが強かった気がする。
そんな中でも、「五色鹿」という土粘土できた小さな置物があってね。
素敵な民芸品で、私もよく雑貨好きの友人にプレゼントにしたりしていたの。
でね、「五色鹿のような可愛い鹿をつくってみたいな」と、集まってくる仲間たちに話したことがあったのよ。そしたら、冗談半分だったのか、「鹿グッズ作ろう!」って、皆んなノリノリ気分で鹿を作るリズムができちゃってて。

当時の磨き上げ作業風景

 

 

鹿専門店「ジュエヌ」のきっかけは、「好き」を言葉にしたこと
メロン:好きな気持ちを言葉に出したら、みんなが予想外にのってきたんですね!そうやって偶然か必然か、ジュエヌの形が出来上がっていったということですね。

オーナー:そうなの。一番最初に形になったのが、廃材されそうになる奈良の杉をつかって鹿をかたどった、鍋敷きだった。最初は集まってくる仲間たちと、糸の子で色んなバージョンの鹿をせっせと切っていたな。
最終的には、そのときの最初の作品が、いま定番になっている鹿モチーフデザインなの。
そこから「鹿の美しさやデザインの可能性」にハマりだして、20年もやっているんだって感じなの。「奈良の鹿」というよりも、鹿そのものに魅了されて続けている、という感じかな。

メロン:もともとお店や鹿に絞っていたわけではなく、偶然や興味本位が重なりあってスタート地点になっていた、ということなんですね。
かわいい鹿グッズを作ってみたい、という発想と言葉があってこそ、共感する人たちが集まり、ポジティブに道が開けて行ったという印象を受けました。
最近ではSDGsも話題になりますが、もともと廃材になりうる奈良の杉を使っていた、というのも素敵な始まりだと感じます。

メロン:では、鹿の美しさに魅了されて20年とのことですが、お店という形になったときから今を比較して、何か変化を感じますか?

オーナー:年月を振り返ってみると、自分史になるのかもというぐらい良い事も嫌な事も不思議な事もぎゅっと詰まった20年で。
気の合う仲間と鹿グッズを作ることは楽しかったけれど、始めた頃は「鹿なんてダサい」って言われていたし、ディズニーのバンビぐらいしかキャラクターもなかったから、鹿を模ったモノづくりをしている私たちって、ヘンテコなことしているとしか思われていなかったんだと思うよ。
そもそも鹿モチーフだけで20年もやっているなんて、想像もしていなかったしね。笑

メロン:確かに、犬や猫、鳥などの身近な動物と比べると、鹿ってかなりニッチですよね。
特別に「鹿が好き!」という人も珍しいような気がします。
鹿雑貨専門店を始めるにあたり、荒波も大きかったのかもしれません。

古いビルの4階にあった2007年頃のジュエヌその1

当時のラッピングスタイル

ニッチな鹿雑貨。愛される理由は「発想と想像」を形にする姿勢
メロン:そんな中で、20年という長い時間、ずっと鹿雑貨のお店として多くの人に愛されてきた秘訣は、なんだと思いますか?

オーナー:ほんとに当時は特にニッチ度が高かったと思う。うぅん、秘訣…そもそも鹿のお店を始めようと思っていなかったからなぁ。
しいていうなら、自由に製作していたこと、が秘訣かも。売れる物を第一に狙って考えるのではなく、「こんなのがあればいいな」と思う自分の発想と想像をかたちにしていくこと。これは、当時から今も、変わらないかな。

メロン:ご自身の発想を形にして、お店に訪れる人へ届けていくことを大切にされていた、ということですね。
その「形になったもの」にお客様が共感する、ということが20年間続いてきた結果が今、ということなのだと思います。

古いビルの4階にあった2007年頃のジュエヌ

古いビルの4階にあった2007年頃のジュエヌ

「将来に残るものを。」ジュエヌのクリエイターが目指す未来
メロン:では最後になりますが、今後のお店やブランドについて、どうしていきたい・どうありたい・どうなりたい、など、描いているものはありますか?

オーナー:そうね。このまま突っ走っていくのだろうなと、自分に苦笑いしてしまうけど。
少しずつ取り組んでいる海外での展示を増やせるようにしていきたいかな。昨年はご縁があって、NYブルックリンにあるギャラリーで展示させてもらって、刺激になりました。
私のモノづくりには「将来に残せるものをつくりたい」が常にありますね。

メロン:将来に残せるものをつくりたい…。残す、というのはなんだか、意味があるように聞こえるのですが、物理的にというわけではないですよね。

オーナー:存在感ありありのモノをつくるのではなく、手に取ってくださる方の生活の中にさりげなく居続けられるように。その想いはずっと変わらないと思う。

メロン:生活の中にさりげなく居続けられるように、ですか。たしかにジュエヌの商品と向き合っていると、「そっと寄り添う」ようなあたたかみを感じるセレクションだな、なんて思ったりします。クリエイターとしての目線だけでなく、発想に愛を感じますね…。

オーナー:これまでもやってきてるけど、私が出来る技術と、私の出来ない技術を持っている誰かが一緒になって、カタチにすること。それは立体か平面か、もしかしたら活字や動画とか…。なににでもなりうると思うの。
想像すると楽しいことをカタチにすることは、幾つになってもやり続けていきたいな。
なりたい自分は、「このまま変わらない自分」なのかな。

メロン:まさに、ジュエヌのきっかけが「やってみたい」気持ちから借りたアトリエや、「作ってみたい」の気持ちで制作した鹿の鍋敷きは、「ワクワクする心」を原料にして形になっていますもんね。
クリエイターの方らしい発想と考え方だと思うのですが、それで生きていこうとすると案外、忘れがちな心のように感じます。

オーナー:私のような自営業フリーランスは、与えられた仕事をするわけでなく、自分で仕事を作り出さないといけないよね。それって孤独でもあり、自分との戦いでもあると思うの。
自分で作り出すことを頑張っている若い人たちに、私の経験談がなにかの役に立てたらいいなと思います。

ジュエヌ20周年。楽しいことをカタチにし続けるのが志。
今回は、ジュエヌの創始者であるオーナーに、ジュエヌのおいたちを深掘りしながらうかがってみました。

1人の自営業オーナーとして、あるいはクリエイターとしての言葉が、どなたかの心に届いていれば嬉しいです。