【column】バイヤー ナホミさんのコラム「理由」

理由。 その2「捨てない理由」
はじめまして。ナホミと申します。長年にわたり、国内外での買い付けやオリジナル商品の企画お仕事をしています。
1999年秋〜2010年夏までの約11年間は、イギリスとドイツに住んでいました。2010年から、久々に奈良で暮らしています。(奈良生まれ奈良育ち)
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子どものころから収集癖があった私にしては、集めはじめたのが遅いアイテム。例によって「ふつうは捨てるもの」。主に、ヨーロッパ暮らしのとき、屋台など外で買い食いをしたときについてきたフォークやスプーンです。(写真はごく一部です)
集めはじめたのは、イギリス暮らしをはじめてからだと思うので、だいたい2000年以降。「本腰を入れて」集めるようになったのは、ドイツに引っ越した2005年以降です。
集めはじめたきっかけは、はっきりと覚えています。ドイツのどこの町にも必ずある「ソーセージスタンド」。駅前や広場など人が集まるところから路地裏まであちこちにあり、いつでもどこでも気軽においしいソーセージが食べられるので、本当によく食べました。(特に、太めのブツ切りソーセージにカレーソースがかかった「カリーヴルスト」が好き!)
さて、そのソーセージに欠かせない相棒が、太めのフライドポテト、通称「ポンミス」。そしてソーセージスタンドで食べるときは、必ず(たぶん)プラスティック製の小さな「ミツマタ」のフォークが添えられていました。
住む前にも、何度もドイツを訪れたことがありましたが、住むまで気づきませんでした。
なんだ、このカワイサは……
……たまらん!(ヒトメボレ)
こうして、ミツマタチビフォーク集めがはじまり、それにつられるように、イタリアンジェラートのスプーンなども集めるようになったのでした。
集まり始めると、いろんな色のものが集まるようになりました。そのどれもが絶妙な「センスのいい色」に思えました。いよいよ気合が入りました。
なぜ捨てないのか。
カワイイから。
捨てるようなものを集めるのがおもしろいから。
偶然出会うもので、選べないし、それ(だけ)を買おうと思っても買えないから。
「買い食い女王」の名誉にかけて、どんな小さなネタも見逃さないのだ!
「捨てない理由」は、いくつも思いつきました。
でも、いちばん大きな理由は、ずっとずっと後になるまで気づきませんでした。
捨てなかった大きな理由に気づいたのは、10年余りのヨーロッパ暮らしを終え日本に帰国し、少し時間が経ってからでした。
日本での暮らし、しかも子どもにとっては初めての日本暮らし。久々の奈良での家づくりなど、帰国してしばらくは、あれこれ楽しく忙しく暮らしていました。しかしそれが落ち着くと、もしかして(いや、たぶん、もうずっと)ヨーロッパで暮らす、なんてことはないかもな。と、少し寂しさも感じはじめていました。
そして、こんなどうでもいいような、ちっぽけなものを捨てずに、後生大事にしてきた理由に気づきました。
いや、本当はずっと前から、ヨーロッパ暮らしがはじまったときから、気づいていた、わかっていたことでした。イギリス、ドイツ。どんなに長く暮らそうとも、私たちはその場所では(ただの外国人で)仮住いをしているだけ。
いつでもどこでも、それは「旅の途中」。長い旅の途中でした。日本を発つときに、10年にはなる、と予定していたヨーロッパ暮らしでした。若かった私には10年は長く思えたし、長ければ長いほどうれしいな、と思っていました。
はじめのころは「海外暮らし」に浮かれて、何もかも全力で楽しんでいました。が、子どもも生まれ、暮らしそのものや子育て、学校など、浮かれてばかりでもなくなりました。
そして、忘れたふりをして暮らしてきたけれど、実はずっと「この暮らしは、長い旅の途中」ということは忘れていませんでした。
だからこんな小さなものまで捨てずにいたのでした。旅先で買った特別なお土産でもない。でもこの小さな、どうってことないものこそが、長い長い旅のカケラ。ヨーロッパ暮らしの大切な記録、記憶、日々の暮らしの愛おしいピースだったのでした。
だからこれからもときどき、そっと取り出して眺めます。
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大人になったころから「いろんなこと、もっと知りたい」をエネルギーにお楽しみを探し続けています。が、ときどき仕事や暮らしに追われるだけの日々を過ごしている時もあります。
だから、ちょっと、ちゃんと考えてみたい。
いろんなことの「理由。」を探ってみたいと思っています。
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ナホミ
